猫は開けた襖を閉めてゆく
みなさんこんばんは。
今週のお題「読書感想文」について、私なりにつらつら書いてみたいと思います。
タイトルは人気アーティストの米津玄師さんが”ハチ”の名義で活動されていた頃の歌詞から拝借。
人によって様々な読書の原体験があるかと思いますが、みなさんはいかがでしょうか?
筆者が初めてハマった小説は、小学生のころ図書館で借りて読んだ「黒ねこサンゴロウ」シリーズでした。
主人公はクールな黒猫のサンゴロウ。シニカルな語り口が魅力的なキャラクターです。
彼はウミネコ族の船乗りで、相棒の”マリン号”を巧みに操り冒険の旅へ向かいます。
サンゴロウをはじめとした個性豊かな登場人物たちの織り成す胸躍る冒険譚に、それこそ寝る間を惜しんでわくわくしながら読みふけったものです。
竹下文子さんの紡ぐ丁寧で柔らかな文体は、当時の私にも読みやすいものでしたし、
鈴木まもるさんの描く挿絵のイラストが想像力をかきたてて、まさに”読む手が止まらない”という感じでした。
当時私の通っていた小学校では、定期的に全校読書週間なるものが催されていて、
期間中は1時間目の授業が始まる前の15分程を読書の時間として割り振られていました。
黒ねこサンゴロウシリーズは人気のタイトルだったので、学校の図書館では順番待ちでしか借りられない状態でした。
先に続きを読み終えた級友に「どうだった?」と聞いては、返ってくる意味深な含み笑いに期待を高め、
いざ読み終えて内容を共有して盛り上がるまでの一連の流れが本当に楽しかった。
思えばあんなふうに一つ所に大人数で集まって本を読む機会は、今となっては貴重な体験だったように思います。
「読書感想文」というテーマからはいささか逸れてしまいましたが、読書というあくまでも個人的な体験をそれぞれが咀嚼し、その面白さを伝えるために言葉を吟味する作業は”読書感想の表明”という大きな括りの中で通じているように思い書かせていただいた次第です。
読書の秋に向けて夜が日増しに伸びるこの季節、皆様も身近な誰かと読書体験の共有をされてみてはいかがでしょうか?
* * * * *
読書感想文についてのごく個人的な思い出をもう一つ。
これも小学生のころの思い出なのですが、当時国語の教科書に載っていた「きりかぶの赤ちゃん」というお話にまつわるエピソードです。
年齢がなんとなくわかってしまいますね(笑)
- 価格: 922 円
- 楽天で詳細を見る
小学生のころの筆者はいわゆる問題児でした。
といっても家庭環境が荒んでいたとか、突然暴れだすといったことではなく、
宿題をやってこない。屁理屈を言う。という類の実にかわいくない子供だったのです。
ある日あまりにも宿題をやってこない私に、とうとう先生の怒りが爆発します。
今では問題視されそうな気もしますが、先生は私の机と椅子をベランダへ移動させ、
「罰としてそこで授業を受けろ」と言いました。
なにせ可愛げのなかった私は、内心「上等だよ」って感じでベランダへ向かいました。
窓だけを開けてもらい、国語の授業を受けました。
日差しの強い夏の日でしたが、幸いベランダは日陰になっていてそれほど暑くはありませんでした。
ただベランダに不似合いな学習机で蝉の声を聞きながら、自分だけが世界で一人ぼっちのような気がしました。
教室ではきりかぶの赤ちゃんをクラスメイトが順番に朗読していました。
一通り朗読が終わると、先生から一つ課題が出ます。
「このお話の感想を書いてみてください」というものでした。
配られたプリントに、こうだったらいいなと思う続きを書いて提出しました。
気まずそうにベランダへプリントの回収にきたD君の顔を今でも覚えています。
授業が終わってから先生に呼ばれました。
どうせ教室に戻ってもいいという話をされるんだろうな、と白々思っていたのですが、
ひねくれていた私はその後もベランダで授業を受け続ける覚悟でした。
しかし予想に反して先生の口から出たのは、先ほどの授業で書いたきりかぶの赤ちゃんの感想文に対しての感想でした。
「すごくよく書けていた」という先生の言葉が、なぜだか無性に嬉しくて、
それまで張りつめていたものがぷつんと切れたような心地でした。
そんなことがあって、その後半べそかきながらめでたく社会復帰ならぬ教室復帰をすることができたのでした。
伝えたいことを適切に伝えるのはいくつになっても難しいことですが、何かを誰かに伝えられたという手応えと喜びの原体験は、その後の人生を大きく左右しているように思います。
この記事を書いたのをきっかけに、久しぶりに読書感想文で伝える練習をしてみるのもいいかもしれないな、なんて思ったりしています。